札幌地方裁判所 昭和41年(カ)1号 判決 1966年2月25日
再審原告
長谷川稔
右訴訟代理人
林信一
再審被告
札幌地方検察庁検事正
片岡平太
主文
本件再審の訴を却下する。
再審訴訟費用は再審原告の負担とする。
事実および理由
一、本件再審訴状の記載によれば、再審原告の求める裁判およびその主張する再審事由はつぎのとおりである。
(一) 再審原告の求める裁判
「札幌地方裁判所が昭和二六年一〇月二五日同庁昭和二六年(タ)第一〇号離縁請求事件について言渡した判決を取消す。再審被告の請求を棄却する。本訴および再審の訴訟費用は再審被告の負担とする。」との判決。
(二) 再審事由
前記表示の原判決は昭和二六年一一月一五日確定したものであるが、右判決にはつぎのような民事訴訟法四二〇条一項三号の再審事由がある。
本訴原告故長谷川嘉一郎は原裁判所に本訴を提起するにつき、本訴裁告(再審原告)の住所が不明であるとして原裁判所に公示送達の申立をなし、原裁判所は右公示送達によつて訴訟手続を進行させ、よつて原判決が言渡されるに至つた。しかしながら、右訴提起当時、本訴被告は東京都千代田区神田神保町二丁目秋山佳人方に居住していたもので、このことは本訴原告においてすでに承知していたにもかかわらず、同原告はこれを秘匿して公示送達の申立をなし、本訴被告不知の間に前記判決を得たものである。右はまさに民事訴訟法四二〇条一項三号の事由に該当する。
二、当裁判所の判断
(一) 再審原告は前記再審事由をもつて、民事訴訟法四二〇条一項三号に該当すると主張するが、同号は確定判決の訴訟手続において代理権の欠缺ある場合に関する規定であり、本件において再審原告の主張するように本訴原告が本訴被告の住所を知りながら公示送達の申立をなし、本訴被告の欠席のまま勝訴の判決を得たという事由は同号の再審事由にあたらないと解するのが相当である。けだし、再審は、確定の終局判決に対する特別の不服申立方法であり、法的安定性に対する例外異例の制度であるから、法も再審事由を限定的に列挙しているとみるべく、したがつて再審事由の規定はこれを制限的に解釈すべきであつて、みだりにこれを拡張しないしは類推して解釈することは原則として許されないものといわなければならず、この趣旨からして、前記三号の規定を本件において再審原告の主張するような事由の場合まで拡張ないしは類推することはできないからである。
もつとも、民事訴訟法四二〇条一項三号の解釈について、当事者が口頭弁論期日にその責に帰すべからざる事由で欠席のまま判決され、その判決が確定したような場合には、該当事者側の訴訟追行者の欠缺を理由に、同号の再審事由に該当することもあり得るとする見解もあり、これが是認され得るにしても直ちに本件の場合をも同一に論ずることはできない。なんとなれば本件再審原告の主張するように一方の当事者の不実の申立によつて公示送達がなされたとしても、それについて裁判長(単独事件において裁判官)の許可がなされた以上申立当事者につき刑事上の犯罪が成立し、または民事上損害賠償の責を免れないことは別として、右の公示送達の手続は有効というべきであり、しかも、本来公示送達は、受送達者たる当事者の側において実際上送達の事実を了知し難く、従つてその訴訟追行を行い難いことを当然予想している制度であり、そのためにまた、公示送達手続のもとにおける審理の場合にあつては、通常の送達手続による審理において受送達者の欠席により破ることのあるべき不利益を除外しているからである。
(二) 以上のように本件再審事由は民事訴訟法四二〇条一項三号には該当せず、ただ同条同項五号の要件を充たす限りにおいて、同号後段の再審事由として主張し得るのみといわなければならない。しかも、右五号の再審事由を理由とする再審の訴は同法四二四条三項所定の期間内に訴を提出しなければならないところ、本件原判決が再審原告の主張するとおり昭和二六年一〇月二五日言渡され、同年一一月一五日に確定したことは当裁判所に顕著な事実であり、本件再審の訴が原判決確定後五年を経過したのちである昭和四一年一月七日に提起されたものであることは本件記録により明らかである。したがつて、本件再審の訴は前記五号の再審事由の主張を含むとしても、すでに出訴期間経過後の訴として訴訟要件を欠き不適法といわなければならない。
(三) よつて、本件再審の訴は本案の判断に入るまでもなくその主張自体から適法な再審事由を欠く不適法なものであることが明らかであり、しかも右欠缺は補正することができない事由に該当するから、民事訴訟法四二三条、二〇二条に則り本件再審の訴を却下すべく、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。(大久保敏雄 宮本増 根本真)